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神戸地方裁判所 昭和30年(た)1号 決定

主文

原判決主文中、請求人を判示第一及び第二の罪につき懲役六年に処した部分につき、再審を開始する。

理由

本件申立の要旨は、『請求人は、昭和二十七年十二月二十二日神戸地方裁判所第二刑事部において、窃盗、強盗致傷、強盗(昭和二六年(わ)第四〇一号、第四六九号、第七三四号)被告事件につき、判示第一及び第二の強盗、窃盗罪につき懲役六年、判示第三の窃盗罪につき懲役二年(未決勾留日数中三百日算入)、その余の点につき無罪の言渡を受け、右判決はいずれも確定し、現在大阪刑務所において右刑の執行をうけている者であるが、右有罪部分中強盗罪についてはいずれも請求人の所為ではなく、当時神戸市生田警察署に対する反感から同警察署の捜査をかく乱し、これを誤らせる目的で当初虚偽の自白をしたため、その後公判廷において無実の主張をしたが容れられず、有罪の判決を受けるに至つたものである。しかるに右有罪とせられた判示第一の(二)の(3)の、請求人が木村正及び松村某と共謀の上、昭和二十四年五月三日大阪市住吉区帝塚山東四丁目三十四番地川端良一方で強盗をしたとの点については、その後真犯人である西田弘、西田清の両名が自首し、或は逮捕せられて昭和二十九年九月二十八日大阪地方裁判所において右と同一の事実につき有罪の判決を受け確定するに至つたので、請求人に対し前記強盗罪につき無罪を言渡すべき明らかな証拠が発見されたわけである。従つて右強盗罪のみならず、これと同様虚偽の自白によるもので全く無実である他の強盗罪全部について再審請求に及ぶ。』というのである。

よつて原判決謄本、当裁判所が職権で取寄せた、西田弘、西田清に対する準強盗、窃盗被告事件(昭和二八年(わ)第二二三〇号、同二九年(わ)第九二五号、第一〇二二号)の確定判決謄本及び同事件記録並びに当裁判所が職権で取調べた証人西田弘の証言を綜合すると、次のような事実を認めることができる。

すなわち、昭和二十七年十二月二十二日神戸地方裁判所第二刑事部において請求人は同人に対する窃盗、強盗致傷、強盗被告事件(昭和二六年(わ)第四〇一号、第四六九号、第七三四号)につき請求人主張のような一部有罪、一部無罪の判決言渡を受け、右判決が確定したこと、同二十九年九月二十八日大阪地方裁判方において西田弘、西田清が同人等に対する準強盗等被告事件(昭和二八年(わ)第二二三〇号、同二九年(わ)第九二五号、第一〇二二号)につき有罪判決の言渡をうけ右判決が同様確定したこと、請求人に対する前記確定判決中判示第一の(二)の(3)の認定事実は『被告人坂口為次郎は木村正及び松村某と共謀の上、昭和二十四年五月三日午前十時頃大阪市住吉区帝塚山東四丁目三十四番地川端良一方で同人所有の衣類六点(価格三万千五百円位相当)及び現金二千円を窃取しこれを持出そうとした際右良一の妻美盛尾(当時四十二才)が帰宅し発見された為逮捕を免れる目的で木村、松村の両名において同女を奥の間に連れて行き『声を出したら殺すぞ』と言つて脅迫し有合せの紐や布切れ等で同女の手足を縛り布切れで猿くつわをはめ手拭で目かくしをする等の暴行を加えた上逃走し』とあり、西田弘、西田清に対する前記確定判決の判示第一事実によると、「被告人西田弘、同西田清は魚川某と共謀の上、昭和二十四年五月三日午前十時過頃大阪市住吉区帝塚山東四丁目三十四番地川端良一方において同人所有の男物黒詰襟服上下一着外衣類雑品五点及び現金千五百円位を窃取し、これを持出そうとする際折柄帰宅した同人妻美盛尾(当時四十二年)に発見された為め逮捕を免れる目的で同女を奥の間に連れ込み、有合せの紐、布切れ等で同女の手足を縛り猿ぐつわをはめ且つ目かくしをする等の暴行をして逃走し」と認定されており、右両事実は同一事実であつて単に共犯者の名前が異つているにすぎないこと、西田弘は右「魚川某」と請求人とは全然別人であつて、請求人が右強盗事件に何等関係がない旨証言していること等、以上の事実が認められる。

従つて、請求人に対する原判決中判示第一の(二)の(3)の強盗の事実については刑事訴訟法第四百三十五条第六号の無罪を言渡すべき明らかな証拠を新たに発見したというべきである。

ところで、原判決が認定した他の強盗罪については、請求人は再審の事由となるべき証拠書類乃至証拠物をなんら提出しないし、他にそのような証拠も見出すことができない。また原判決によれば、判示第一(二)の(3)の強盗罪と判示第一(一)及び(二)の(1)、(2)の各強盗罪、並びに判示第二の窃盗罪とは刑法第四十五条前段の併合罪として一個の刑が言渡されているが、判示第二の窃盗罪について再審の請求のないことは請求人の主張自体により明らかである。

しかしながら、数個の犯罪事実が併合審理せられ、それに対し併合罪として一個の刑が言渡された場合には、その併合罪は上訴の関係で不可分であると同様に、再審請求の関係においても不可分であると解すべきであつて、右併合罪の一部に対する再審請求は結局その併合罪全部に対する再審請求であると解すべきであり、また右併合罪の一部につき再審の理由があれば結局その併合罪全部につき再審の理由があると解するのが相当である。けだし、併合罪につき一個の刑が言渡された場合、併合罪の一部のみに対する請求を認め、その一部につき再審を開始し、他の部分につき再審を開始しないとすれば、原判決で言渡された一個の刑が結局変更せられないことになり、確定判決の事実認定の不当を理由とする非常救済手続である再審の意味が殆ど失われるからである。

従つて、本件においては、前述のように、原判決の判示第一及び第二の罪につき併合罪として一個の刑が言渡され、右併合罪の一部である判示第一の(二)の(3)の強盗罪につき、再審の請求があり、且つ再審の事由がある以上判示第一及び第二の罪全部につき再審を開始すべきものと解すべきである。

結局、請求人の本件請求は理由があることに帰するから、刑事訴訟法第四百三十五条第六号、第四百四十八条第一項により、原判決主文中請求人を判示第一及び第二の罪につき懲役六年に処した部分につき再審を開始すべきである。

よつて主文のように決定する。

(裁判長裁判官 石丸弘衛 裁判官 栄枝清一郎 武田正彦)

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